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よのなかは。

映画・本の感想。観て/読んで心打たれた作品を紹介しています。

姿の見えない敵と、どう戦う?"Rebecca(レベッカ)" 感想

作者:ダフネ・デュ・モーリア
1938年

今回ご紹介するのは、ヒッチコックが映画化したことでも有名な英文学作品レベッカです。ずっと気になっていた傑作ミステリですが、この度、遂に読みました!
この記事は、
1.あらすじ
2.難易度

(感想)
3.浮世離れ×生活感
4.死人と戦うということ
5.愛憎 

という構成になっています。項目4のみネタバレがあります。ご注意ください。





1.あらすじ

旅先のモンテカルロで出会った年上の英国男性とスピード結婚した若い主人公。夫の屋敷に移住し幸せな新婚生活を送るはずだったが、いざManderayに住み始めると、屋敷の内装、食事のメニュー、使用人の言葉や態度、時折心が遠くに行ってしまう夫の様子、その全てから先妻レベッカの存在を感じる日々が待っていた。追い詰められていく主人公。そんなある日、過去の悲劇を思い出させる事件が起こる…



2.難易度


翻訳の評判が芳しくないようでしたので、原書で読みました。ISBN 0-380-73040-7の版です。安かったので選んだのですが、こちら、本編の後に初稿の後日談が載っています。マラソン完走した後にサプライズで家族が待ってくれていたような嬉しさがあります。おすすめです。


英語の難易度の方はというと、
・(ミステリにしては)登場人物が少ない。それぞれのキャラクターに特徴があり、混乱しにくい。
・(序盤の屋敷の描写さえ乗り切れば)会話や心理描写が多く、テンポよく読める。
・ずっと主人公の視点で語られるので、状況把握が容易。

ことから、辞書なしでもスムーズに読み通せるレベルです。ただ、イギリス文学だけあって庭の描写がしつこい緻密なので、植物関連の単語には要注意です。'rhododendron'とか。スッキリしながら進みたい方は、辞書必携です!





3.浮世離れ×生活感


孤児だった主人公が上流階級の男性と結婚し、立派な屋敷で夫人として暮らすことになります。
自分のことは自分でやる生活に慣れていた主人公にとっては、慣れない習慣だらけの屋敷での生活。
食事の支度はじめ、身の回りのことを自分でしない階級の人たちって、暇なのかな?と考えてしまいますが、意外とそうでもない、というのがこの小説を読むとわかります。彼らには家の切り盛りという仕事があるのです。
例えば、執事やシェフやメイドや庭師たちにあらゆる指示を出す、屋敷で開催する行事の手配、弁護士や社交界に送る書類の作成など。



私がよく覚えているのは、「晩御飯の料理につけるソースを指定してほしい」と、女中さんから内線で電話かかってくるシーンがあって、そんなソースに詳しいわけでもない(当たり前だ)主人公がおろおろしながら「以前と同じようにお願いします」と応じるシーンです。

優雅な生活が始まると思いきや…リアルすぎて辛い、シンデレラのその後みたい…と感じた記憶があります。
自分の一挙手一投足に対して、今、女中に呆れられたわ、と落ち込んだり、家の常識通りに行動しようと、執事の顔色を伺ったり…と、なかなかに不憫でした。



でも、このリアルな描写が、魅力なんです。ミステリ好きな方ならご存知でしょう!ミステリってやたらとセレブが登場しがちじゃないですか。でも、そんなミステリを何百冊も読んできたけど、こんなリアルな生活感ある作品にはまだお目にかかったことがなかったです。浮世離れした生活の、リアルな苦労が覗けるって、尋常じゃないくらい新鮮でした。もうこれだけで、「読んでよかった」と胸をはって言えますよ、私は。





4.死人と戦うということ


さて、この小説は、主人公がネガティヴっぷりが凄まじいです。作者の精神状態がちょっと心配になるレベルです。


例えば女中が突然部屋に入っていった自分を見て戸惑っただけでも「今、絶対呆れられた!常識はずれなことしちゃったんだわ、私!」みたいな。ほとんどノイローゼです。
前妻レベッカのように完璧に家政を取り仕切ろうと奮闘する主人公ですが、自分と彼女を比べては追い詰められていく毎日を送っています。

でも、その根底にあるのは「夫が自分ではなく前妻のことを愛しているのではないか?」という不安です。
自分が愛している相手が自分のことを愛しているか、不安になるのは当然ですよね。

ましてや前妻レベッカは、彼女を知る誰もが「今まで会った誰よりも美しい」とか「とても魅力的」とか「社交的で愛らしい」と言うような女性です。
主人公は、レベッカの筆跡を見ただけで動揺し、そのページを破って燃やす(…!)ほど彼女を意識し、日々戦っています。

しかし、相手は会ったこともない死人です。そんな相手と戦って、勝てるでしょうか?無理です。死んだ人は過ぎた時間の中で永遠になります。それでいて現在には存在しないのです。ですから負けません。
一方、主人公はレベッカの時間が溜まっている屋敷で、残影に振り回され続けます。

「眼前の恐怖も、想像力の生みなす恐怖ほど恐ろしくはない」というシェイクスピアの言葉がありますが、彼女の場合は、想像力の生みなす恐怖がそのまま眼前の恐怖をも作り出しているようにも感じました。こんな恐ろしい心理状態を目の当たりにして、恐怖でゾクゾクしました。





5.愛憎


*この項目にはネタバレがあります。うっかり読んだら主人公の心理への共感もスリルもクソもないです。これから読む方は、絶対に読まないでください。












ミステリ好きな方は、序盤で「レベッカの死体を確認したのがド・ウィンターただ一人」という事実から、「その死体は別人で、本物は生きているか、殺されたか、どちらかの可能性大!」と、この先の展開にハラハラしながら読みましたよね!?(私はそうです)
そして、終盤でレベッカの本物の死体が発見されました。犯人そのものに関しては、納得ですが…動機は意外なものでした。でも、まだ理解できる気がします。

しかし、殺されたレベッカの方!彼女の心情は、衝撃的じゃありませんでしたか!?

私、レベッカは心がほとんどない人だと思っていたのですが、死ぬ前の発言を読んで、少なくとも彼女は夫のことを愛していたのだと確信しました。(ただし、彼女がそれを自覚していたかは別です)それがこの小説中最大の衝撃でした。


彼女、夫に一世一代の大嘘をついて(煽って)、いわば自分を「殺させる」じゃないですか。
お得意のゲームのつもりだったのかもしれませんが、そうだとしても、札が強すぎますよ!一回使ったら終わりの、命だですから。それも自分の。
病気でもう長くないとわかったからって、夫に殺人という最大の罪(と、一生残る自分への罪の意識)を負わせて人生をフィニッシュって……
おかげで彼女は夫の中で永遠になりましたし、いかにもレベッカらしい人の愛し方だなあと感動してしまったのは、私だけなのでしょうか…。


作中で唯一心に縛られてないのがレベッカだと思いきや、誰よりも情熱的な人だったのでは??と、まあ、これも主人公顔負けの私の妄想力の産物かもしれませんが……




人の命を奪うのは愛なのか、憎しみなのか。読めば読むほど、わからなくなります。